小料理屋さつき

かつて「はてなダイアリー」にあった「小料理屋さつき」をインポートしたもの+細々と。

滄桑之変:自由すぎるのも困りもので

 ずっと前のこと。もう10年前位になるでしょう。雑誌の編集後記のコメントによせて、ちょっとしたお便りを出した後、そのコメントを書かれた編集の方と数度お手紙のやりとりをさせていただきました。その時にはまだインターネットが浸透しておらず(私も草の根パソ通しかやってませんでした)、今の2chのようなものが現れることなどあまり予想が付いてなかった状態でした(まあパソ通で諸問題は出ていましたが)。
 その編集の方が、作家や記者、編集者など、文章を書くことを職業としている人以外でも、気軽に自分の意見を全世界に向けて発信できるようになるということに対する不安感というのを述べてらっしゃいました。そしてその不安が現実のものとなり、様々なトラブルを引き起こしている訳です。
 無論、プロだからいい文章を書いている、素人だから箸にも棒にもかからない文章だと決めつけることはできません。実際、ネットで色々なコメントが日々あふれている訳ですが、いわゆる「プロが書いた文章」よりも読みやすい、面白い、人を惹きつける、そういう風に感じたものは沢山ありました。
 が、同時に「これはさすがに問題だろう」という、単なる個人的な罵詈雑言、2ch風でよくいうところの「チラシの裏にでも書いとけ」というようなものもあふれ、中には誤解を招いたり問題を引き起こしてしまったりというものもあるわけです。

 私は、国の法が、人々が様々な意見を述べることを規制することは反対です。が、人の法というもの・・・道徳というものを無視し、好き勝手なコメントを書き散らすこともまた反対します。具体的な証拠もないのに、思い入れや一時の感情にまかせたコメントや、人によっては誤解されてしまうような、トラブルを招きやすいコメント、成人向けコンテンツの中でも、あまりにも過激なものをネット上に誰でも閲覧できる状態で公開することはよくないのではと。
 どうして良くないのかといえば、小中学生などの「パーソナリティがしっかりとしていない微妙な年齢」の世代でも気軽にネットにアクセスできる昨今、刺激的な意見に彼らが振り回され、きちんとした理由、バックグラウンド、環境等を考えずに、そういう意見に身を任せてしまうようなことを危険だと思っているからです。無論、10代であっても、読み手のことを思いやり、理路整然とし、しっかりとした基盤でコメントを書き、物事を考えることができる人はいますし、30、40、50過ぎてもワケワカラン、あやふやな理由からコメントを書き綴ったり、またはそういう意見に振り回されたり、すっかり頭から信じ込んでしまう人もいるわけなのですが。

 今では疎遠になってしまったある友人がよく、「学生運動以降、政府が学生をホネヌキにするために教育をおかしくしたために、その副作用で現代社会がおかしくなったのサ」と言っていましたが、まさしくそうだと思います。学校だけで勉強するな、本には色々な知識が詰まっているのだからと私も常々言ったりします。
 本当の教育とはなんなのか・・・・考えるというのはどういうことか、読み手を納得させる文章というのはどういうものか、わかりやすくて見やすい根拠を示す作業の重要性、討論になっても落ち着いて話し合うこと等々についてスッポ抜けしてはいないかと思うのです。そのために、罵詈雑言としか思えないような意見がネット上に氾濫してしまい、それに振り回されてしまう人も増えてしまうと私は考えます。
 そういう教育・・・学校のみならず、家庭での「子育て」というレベルからの変革がなければ、いくら国の法を云々言ってもどうにもならないと私は思うのです。人が変わらねば世の中もまた変わらない。そして人を動かすのは国の法ではなく、人のこころなのだと思うのです。国の法はあくまで「やってはいけないこと」というものの指針でしかないと私は思うのです。
 今本当に必要なのは、人が「何をしなくてはならないのか」というものの指針、すなわち人のあるべき姿、「人の道」についてみんなでよく考えることではと思います。相手を思いやる心、しっかりとした理由付けの上での善悪の判断、悪意から身を守るための様々な知識、歴史を大切にしつつもそれに振り回されず明日を考えること、メッキのかかったオイシイ話を見破るしっかりとした目・・・・そういう確固たる人格形成を、社会全体で考えていくということの重要性をまず考えて欲しいと思うのです。さらには、社会人になったとしても自らのこころの研鑽に努め、良き人間として行動することを心がけて欲しいと思うのです。
 人の道にそった人格形成がきちんとしていれば、多少の罵詈雑言を耳にし、目にした所で己が揺さぶられることはないでしょう。また、自ら罵詈雑言をまき散らすこともないはずだと思っています。生きていく上でいろいろトラブルがあって、悲しいこともあるでしょうが、人の道を外れたことを実際になすこともないでしょう。

 本当、様々な問題がネットで取り上げられていますが、現代の人々のこころにある根本の問題が解決しなければ、法整備をしようが、ネット上であれこれ言い合おうが、なんの解決にもならないのではと不安に感じています。