小料理屋さつき

かつて「はてなダイアリー」にあった「小料理屋さつき」をインポートしたもの+細々と。

本当に危険なのは

 ある記事の事で宇宙の戦士に出てきたシーンを思い出し読み返していたら、機動歩兵訓練パートの中のこの文章とその前後でハッとなった。

 ロバート・A・ハインライン 宇宙の戦士(矢野徹 訳) p133

「そうか? おまえは、現在の段階における新兵たちが、野獣のような状態だということを、おれよりもよく知っているはずだ。やつらに背を向けていても安全な場合と、そうでない場合のけじめも、ちゃんと心得ているはずだぞ。おまえは、第九〇八〇条の言っていることをはっきり心に刻みつけてあるのか……この条文を犯す隙など、絶対に兵隊どもに与えてはいかん。機会さえあればと狙っている兵隊もなきにしもあらずだからな……また、それぐらい攻撃的でなければ、ロクな機動歩兵にもなれんはずだ。やつらは基地では御しやすい。やつらが、食事をしていたり、眠っていたり、疲れて腰をおろしていたり、講義を聞いているあいだは、背中を向けていても安全だ。だがひとたび戦闘訓練か、これに類した演習に入った場合は、やつらはとてつもなく興奮しアドレナリンをいっぱい出し、鉄帽いっぱいに入れたニトログリセリンみたいに爆発しやすくなる。おまえたち教育係は、それぐらいのことはわきまえているはずだ……そしておまえたちは、そういった徴候を監視し、そんなことが起こる以前に嗅ぎわけるように訓練されているはずだ。どうしてあんな青くさい新兵に黒あざなんか眼につけられたのか説明してほしいもんだ。あんなやつに手をかけさせては絶対にいけなかった。あいつがそうしかけたとき、素早く察知してなぐりつけ、完全に気絶させてしまうべきだったのだ。(略)」
 (中略)
「あの兵隊を、安全な連中のひとりと盲信していたのかもしれません」
「安全な兵隊などというものが、あってたまるものか」

 このシーンは 訓練中に「凝固(フリーズ)」の命令を下されたが、ある新兵の一人がその命令が下された時伏せたのが噛みつく蟻の巣の上だったのだ。耐えきれなかったその新兵は凝固を破り、破った後に出された再び凝固せよという命令に服従しなかった。教育係の軍曹は新兵を手で殴った。何故そういう事が許されるのかはこの作品の世界観ゆえである。詳細を知りたい方は一読してとしか言いようがなく申し訳ない。さて、蟻の巣から逃れようとして殴られた新兵は軍曹を殴り返してしまう。
 当初は命令不服従による隊内処分の流れだったが、軍曹を殴り返した事を新兵が口にしたことで軍法会議の流れとなる。
 引用部分は軍法会議が終わった後で、軍曹の上官が軍曹と会話するシーンである。

 

 2023年06月中旬、岐阜にある陸自の射撃場で起きた発砲事件。
 これを書いている07/02にこの事件の動機についてググったら「「弾薬を奪うために邪魔な人を撃った。銃と弾薬を持って、外に出たかった」と供述していた」という話が記事にあった。
 
 「安全な兵隊などというものが、あってたまるものか」
 という軍曹の上官である大尉の言葉。この作品が出版されたのは1959年。何より小説の中の台詞なのだが、2023年の現実世界でも、軍の教育機関で語られている事ではないだろうかと、ペラッペラの素人だが想像するのだ。
 軍だけではないかもとも思う。操作を誤れば人を殺傷する可能性がある道具を使うことを学ぶ場所でも語られているかも知れない。
 
 先日の事件のような事を100%防ぐ事は難しいかもしれない。でも、悲劇が二度と起きないよう対策をと祈ると同時に、人材育成を担当する事は本当に難しいと深く思う。